【裏千家インタビュー】大志万学院 校長 マドエノ川村まゆみ先生
第17回目のブラジル著名人インタビューは、大志万学院のマドエノ川村まゆみ先生にお願い致しました。ここブラジルにおいて日本の文化を学ぶことができる独自の教育方針について、その経緯や理念を伺いました。
―現在の大志万学院となるまでの経緯は?
母が始まりです。母はサンパウロ州ボツカツに生まれ、日伯二重国籍を持ち12歳の時に日本へ短期留学し、終戦後も11年程日本でお世話になりました。その間に教員の資格を取得し、ブラジルに帰った後の1952年に「人間を育てる日本語学校」としてスタートしました。戦争を起こさない人間を作りたいという理念で、日本語や日本文化を学びながら人間の尊さを伝えていきたいと。
1980年代には英語学習の重視により日本語を学ぶ子供が激減し、母はブラジルでの日本語や日本文化が無くなってしまうのではないか、という危機感がありました。ブラジル学校を開いてその中に日本語や日本文化を取り入れていけばいいのでは、という考えから、1993年にブラジル学校として設立しました。
―生徒さんはブラジル人の方が多いのでしょうか?
殆どが日系ブラジル人です。第一外国語が英語と日本語ですので、どうしても日系人が多くなりますが、保護者の90%は日本語ができません。二世、三世と世代を超えていく中で、日本語や文化を学ぶ機会を逸し日本人的な側面が薄れてしまった。けれども大人になって自分のルーツを忘れないで欲しいという想いで、子どもたちに当校での学びを希望する方が多いのだと思います。ですが周りのブラジル学校のレベルと合わないことは望まれません。プラスの要素として日本文化を取り入れています。
―まずはブラジルの学校であるという事がベースになっているのですね。
はい。皆それぞれに良いものを持って生まれてきています。その良いものを探し出すこと、それが人間教育であり、私たちの仕事だと思っています。駄目な子は一人もいないと言える学校を作りたい、という想いで始めた学校です。
積極的に発言するというブラジルの良さと、人への心遣いや礼儀正しさという日本の良さ、両者の良い部分を取り入れることが大事だと考えています。
―授業内容はどのような特色がありますか?
基本はポルトガル語で進めていて日本語の授業が週3回、英語が週3回、スペイン語は中学校からですが週2回あります。教科書は日本のものを使っており、そうすることで生きた日本語が入ってくると思います。
またブラジルは芸術の面でとても優れた国ですが、それが学校教育の中にあったとしても僅かです。それに比べると全人教育を取り入れた当校は音楽と美術にとても強いです。
その他、陶芸、演劇、木工、パッチワーク、書道、茶道などを週に一度ずつ取り入れています。最近はあるグループの演奏を聴いて強いエネルギーを感じた和太鼓や、空手、将棋、合気道も取り入れています。
また、一年を通して様々な行事がありますが、その際は保護者の皆様に手作りのお弁当を持って来てもらうようお願いしています。
―それはどういった意図で?
当校は、子どもが中心にいて、その周りを社会・親・学校の3つが一体となり子どもを育てる事を重要としておりますので、親の力はとても大切にしています。手作りのお弁当を頼むと、中には一度もお料理を手掛けたことが無いという方も含め、殆どの方が作って来て下さいます。
例えば子どもが親になった時、ただプレゼントを買うよりは「息子たちと一緒にケーキを作ったから今持って行くね」という風に育てば、彼自身が幸せになるのではないかな、という考えの元、手作り手作りとうるさく言っています。こうしたことで家族が一つになり心が通い合い、子どもは幸せに育つのではないかと。26年間、お願いしております。
―食事のシステムにも独自のものがあると伺いましたが。
最初は日本食としてすき焼きやカレーを入れていたのですが、味が違ってしまう。日本食の美が分からないままになるのではないかと思い、母が保護者に相談しました。それから有志のお母さんたちに日本食を作ってもらうようになりました。もう20年以上前の話です。お母さん達がメニューを考えて毎週、週に一度集まって食事を作り、1クラスに出します。これがずっと続いていて、今では4代目です。12名いらしてお父さんも3名参加されています。メニューは沖縄料理など様々で、旬のものを出すようにしています。食器は本間ひでこさんからの寄付など使わせていただいています。
親御さんもお仕事が忙しい中、とても大変な事ですが、子ども達の喜びの笑顔を励みに頑張って続けてくれています。
―日本では道徳授業というものがありますが、大志万学院ではどうですか?
道徳の授業というのはありません。クラスで何か問題が起こっても、その都度皆で話し合い解決しています。考えを共有する教員がいるお陰です。
校内ルールも、なるべく子ども達から出てくるよう、自身の行動についてよく考え子ども達で判断し、ルールを決めさせています。もし破った時は、自分達で決めたことを守れないでどうするの、と問いかけて、この繰り返しをしています。強い意志と信念を持つようになるのではないかと思います。
―学校の決まり事について、保護者の方と話し合い同意を得ながら進めることもありますか?
いえ、それはありません。ですから反対意見もありますが、納得してもらう根拠はあります。今は規則ということの捉え方が難しくなっていますね。
人生の中には規則が沢山あります。制服一つとっても、ただ服装の話をしているのではなく、規則を大事にすることが子どもにとっていかに大切かを考えて欲しいのです、と保護者の方にお伝えしています。お互いに話し合い、ご理解いただいています。
お陰様で、親も一緒に成長しているね、と言って下さる親御さんもいらっしゃいます。
―先生にとって茶道の魅力は?
言葉のない心のつながりだと思います。例えばお茶碗を回すにも、ただそうしているのではなく一番綺麗な向きをお客様へお出しする。出された方は、とても綺麗だけれど自分はそこまで優れた人間ではないのでと少し避けて口にする。
6歳7歳から14歳までの子どもは、正直あまりよく分かっていない部分もあると思いますが、幼い頃に触れておくことは大切だと思います。京都で飲んだ抹茶を、何か味が違うと分かる子もいますし、当校で始めた茶道を大人になった今でも続けている子もいます。
―座右の銘は?
自分に一番正直であること、です。人間は弱い面が多くあるので、自分に正直でいれば子ども達にも何か伝えられると思っています。
―本日は貴重なお時間をありがとうございました。
インタビュー;2019年9月
2019年10月