18. 秘すれば花
-秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず-
この言葉は、世阿弥がその著『風姿花伝』で述べた一節です。
秘めるからこそ花になり、秘めねば花の価値は消え失せてしまうという意味です。
この『風姿花伝』は,応永七年(1400年)から同25年ごろにかけて 亡父観阿弥の教えをもとに著したものといわれています。略称『花伝』、『花伝書』世阿弥の残した21種の伝書の内最初の作品で、能の修行法、演技論、演出論、歴史。能の美学など世阿弥が会得した芸道の視点からの解釈を加えた著述になっています。ここでいう「花」とは、観客に思いもよらぬ感動を与えることこそが『花』であると述べています。
又、芸の流派には秘事があり、一般的に公開しないからこそ価値が上がる。公開すると、さほど意味がなくなるものである。秘事が大したことではないと思う人は、本当の効果を知らないのであるという解釈もあります。これは隠している物自体はそれほど重要でないけれど、隠すことによって何か効果が生まれると説いています。はじめから珍しいものを披露すると言うと、観客はそれを期待するのでさほど驚かない、何も知らせずに突然珍しいものを披露すると、観客は非常に驚き盛り上がる。人々に思いもよらぬ感動を与えること。それが「花」というものといっています。
一般的「花」とは、①草木の花、梅や桜 ②華やかなこと ③栄えること、名誉 ④うわべが美しく、真実味がないこと ⑤(能楽用語)から転じて、芸能の美しさ・魅力。
秘すれば花の類義語は、
① その者からそれともなく感じられるいい意味、特徴{深い味わい}
② 見た目の華やかさではないが、実力や魅力がある{いぶし銀}
③ 謙虚である。
日本の美学をその小説に取り入れた、立原正秋という作家が、『秘すれば花』という短編集を書いており、その中で、世阿弥のこの書に深く感動したと書いています。
又、医学博士でもあり、小説家の渡辺淳一は、その著作『秘すれば花』の中で、男女の本質に迫る恋愛小説を書いています。医学的な人間認識と共に、華麗な現代ロマンで、あえて沈黙することが美しいと表現しております。
2022年12月