20. 江戸紫 えどむらさき
江戸紫、(えどむらさき)とは、江戸で染められた紫の意で、青味みを帯びた紫のことです。江戸時代の日本人が、「粋」だと感じていた色です。
代表的なものに、歌舞伎の『助六由緒江戸桜」で、助六が頭に巻いている鉢巻の色が、江戸紫です。下のような川柳があります。
――紫と男は、江戸に限るなり—
これは京都の「京紅」に対して、紫染めは、江戸が優れていて、紅染めは、京都が優れているとの意味です。因みに、錆びた赤みの紫を『京紫』や、『古代紫』と言われ、江戸紫の青味を帯びた紫を『今紫』と呼ばれました。
【色の説明】
紫(むらさき)とは、紫根(しこん)で染められた絹のような赤と青の中間の色のことです。名前の由来は、「紫草」(むらさきくさ)の根で染められたことから、色名も「むらさき」と呼ばれるようになりました。
初夏から夏にかけて白い花を咲かせ、「群ら咲く」(むらさく)ことから、「むらさき」と呼ばれました。乾燥した根(紫根)は、生薬や染料として珍重されています。京都の大徳寺は紫野と言われ、紫草が一帯に咲いていました。
【文学上に現れる紫】
平安文学にも多く登場し、日本文化を象徴する色となりました。
源氏物語の『紫の上』や作者の紫式部の名前や、万葉集にも下のような和歌があります。
―あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る
―紫草の にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに われ恋ひめやも
いつの時代のも紫は憧れの色で、現代でも「紫授褒章」(しじゅほうしょう)のような栄誉ある色のひとつとなっているのも、日本人が紫を尊ぶ文化があるからでしょう。
2023年9月