19. 煮る・煮物
いかは皮目に鹿の子包丁を入れてさっと煮る
いかに細工もせずに火を通すとくるっと丸まってしまう。いかの皮には縦と横に長い繊維が走っていて熱するとこの繊維が強く収縮し、内側に丸くなってしまう。これを防ぐため、煮る場合でも焼く場合でも、皮目に切り込みを入れる。前述したように縦横2方向に繊維が走っているため1方向に切り込みを入れただけでは片手落ち。必ず縦と横の繊維を切るよう、「鹿の子切り」や「松笠切り」といわれる、2方向の包丁目を入れなければならない。このように切り込みを入れておくと、食べるときにも軟らかい。
切り込みを入れたいかは食べやすい大きさに切って火を通すが、ここで大切なことは、味を充分に含ませようと煮込んでしまわないこと。きれいに照りがついたいかの煮物は、いかにもしばらく煮込んで味をたっぷり含んでいるように見えるが、これは大きな間違いである。いかは中途半端に煮込むと硬くなる。さっと煮たときは、弾力のある柔らかさに仕上がり、逆に充分長く煮込めば、箸でたやすく切れるほどに軟らかくなる。
いかの柔らかい歯ごたえを残しながら、煮込まずに味を染み込ませる方法を紹介しよう。
あらかじめ煮汁を鍋に用意して、煮立ったところにいかを入れる。2~3分ほどさっと煮て、仕上げに葛粉や片栗粉で濃度を付け、いかにからませる。あるいはいかをさっと煮たところで取り出し、煮汁だけ煮詰めてからいかを戻してからめるという方法でもよい。このよう煮ると、表面に包丁目を入れてあるので、味がのりやすく、食感も軟らかく感じられる。
また、いかは大根や豆と相性がよい。大根や豆類は、いかを軟らかくする作用があるためで、一緒に煮ることが多い。この場合は生のいかと大根などを一緒にして、大根が崩れるくらいまで1~2時間ほどじっくり煮る。
2018年8月